アジャイルコーチ活用ガイド:現役コーチが解説する選定のポイント

活用ガイド

アジャイルを導入したけど、うまくいかない。スクラムチームのパフォーマンスを上げたい。そんなとき、社内にチームが1、2チームだけであれば、腕の良いスクラムマスターを雇えば済むかもしれません。しかし、開発チームが2チーム程度の会社は少ないと思います。

そこで、ある程度の規模の開発組織を持つ会社であれば、同時に複数のチームのパフォーマンスアップを考えるときに検討されるのがアジャイルコーチの存在です。社員に研修を受けてもらって改善を目指す例を多く見てきましたが、研修を受けたといっても初心者が集まっただけではパフォーマンスが出せるチームになるのには難しいです。アジャイルコーチがいれば、現場を見てアドバイスがもらえるため、社内の状況に合わせたアジャイル開発の実施が可能になります。

私は8年以上アジャイルコーチとして様々な組織の支援に携わってきました。本記事では、コーチの立場から見た「状況に適したコーチの見分け方」、「アジャイルコーチの外部依頼か内部採用か」、「効果的な活用方法」をお伝えします。

結論

アジャイルコーチは、プロダクトを成功に近づけ、組織へのアジャイル定着や、組織文化の変革をサポートしてくれるサービスです。

アジャイルコーチを導入する場合は、最初は社外のアジャイルコーチに支援しに来てもらい、その後、社内でアジャイルコーチを採用したり育てたりするのが理想的。まずは3ヶ月の外部支援から始めましょう。

コーチの選び方 はバックボーンによって得意領域が異なるので、技術的な支援、チームビルディング的な支援、組織的な支援、経営層への支援、の手厚くしてほしいサポートに適したコーチを選ぶこと。必要であれば、アジャイルコーチにアジャイルコーチを紹介してもらうのが成功率が上がる。

アジャイルコーチが組織にもたらす価値

実際の支援経験から、アジャイルコーチは以下のような価値を提供できます:

  • アジャイルプラクティスの定着
  • スクラムマスターの育成
  • チームの生産性向上支援
  • プロダクト品質の価値の向上
  • 組織文化の変革支援

アジャイルコーチは、アジャイルプラクティスの定着や、スクラムマスターの育成を通して、チームの生産性向上※やプロダクト価値の向上に貢献します。チームの生産性を上げたり、プロダクトの価値の向上をするということは、もちろん、チームが継続的にスキルアップする仕組み、効率的に開発できる仕組み、障害が発生しづらい仕組みを構築することをサポートしてくれることもあります。少なくとも、私はそのようにサービスを提供しています。

※ここでいう生産性とは、リソース効率と呼ばれる人の稼働率を高める生産性ではなく、フロー効率と呼ばれるニーズが生まれてから価値が提供されるまでの時間の短さです。

アジャイルコーチの活用方法を選ぶ

社内採用と外部支援の違い

社内採用と外部支援の違いは、この表の通りです。

観点社内採用外部支援
組織理解時間をかけて深い理解が可能複数組織の経験を活かした客観的視点
コスト長期的には費用対効果が高い必要な期間のみの費用で済む
継続性長期的な伴走が可能契約期間内での集中支援
リスク採用のミスマッチ知見の内部定着が課題

外部支援のアジャイルコーチは、いろいろな組織の支援を経験しているので、社内でアジャイルコーチをしている方に比べて客観的な視点やいろんなケースに対応してきています。そのため、特殊な環境への導入でも問題なくサポートしてもらえます。一方、社内のコーチは、組織文化などを深く理解して社内に合った推進の仕方をしてくれます。とはいえ、社内に有識者がいない状態では、社内でコーチを育てたり、採用するのは難しいので、外部支援のサービスから始めるのがオススメです。

また、社内でアジャイルコーチを採用しようとすると、一般的な職種よりも年収も高めですし、大きな買い物になります。社外のコーチは、時間あたりの単価はどうしても高くなってしまいますが、必要な期間のみの費用ですみますし、仕事をして継続の判断ができるため、採用のミスマッチのような大きなリスクを回避できます。

社内採用・育成のメリット

  1. 組織への深い理解
  • 社内の文化や政治を理解した上での支援
  • 長期的な人間関係の構築
  • 暗黙知の活用が可能
  1. 継続的な支援
  • 段階的な改善の実施
  • チームとの信頼関係の醸成
  • 組織の成長に合わせた支援
  1. ナレッジの蓄積
  • 経験や学びが組織に残る
  • 内部での育成が可能
  • 組織固有の課題解決手法の確立

外部支援のメリット

  1. 豊富な経験の活用
  • 多様な組織での支援経験
  • ベストプラクティスの知見
  • 問題解決の引き出しの多さ
  1. 客観的な視点
  • しがらみのない提言
  • 外部視点からの課題発見
  • 新しい視点の導入
  1. 柔軟な活用
  • 必要な期間だけの活用
  • 特定フェーズでの集中支援
  • スキル要件に応じた人選

外部支援アジャイルコーチの費用

外部支援のアジャイルコーチといっても、価格帯に少し差があります。価格を掲載していた企業の情報を引用しておきます。価格は変更される可能性があります。ご利用前に、各社に問い合わせてみることをオススメします。

株式会社永和システムマネジメント

25万円~ (1日)

参考:アジャイル導入サービス | 株式会社永和システムマネジメント コンサルティングセンター

株式会社アトラクタ

費用(消費税込み) 1回あたり27.5万円〜

  • 7時間:27.5万円〜(税込み)
  • 3時間:16.5万円〜(税込み)

参考:アジャイルコーチング | 株式会社アトラクタ

サーバントワークス株式会社

半日 15万円(税別) 3時間以内

1日 28万円(税別) 7時間以内

参考:基本価格 | サーバントワークス株式会社

株式会社witch&wizards

基本価格 3万/時間(税抜き)

参考:仕事のご依頼 | MRYY

当社サービス

当社のアジャイルコーチングサービスの価格です。

  • 2万円/時間(税抜き)

外部支援を受けての失敗談

私もいろいろな現場の支援をしていたり、エンジニアの方とのつながりがある中、外部のコーチを呼んで後悔しているケースも何度も聞いたことがありますので、簡単に紹介していきます。

外部のアジャイルコーチに支援を依頼する場合、どの程度の期間で効果を判断すればいいのかが難しいと思います。残念ながらコーチングの効果が出ない場合もあります。私の経験や、同業のコーチの意見を聞いても3ヶ月で効果を確認するのがオススメです。効果が出ない場合は、環境の相性が悪かったり、コーチの腕がイマイチな可能性も考えられます。

ほかに、ある程度の支援機関が合ったにも関わらず、コーチがいなくなってしまったあとに組織が元に戻ってしまったという場合もあります。やはり、コーチがいなくなったあとも継続的に良くなるのには、コーチの腕に左右されかなり難しい課題があるようです。ここに心配がある場合は、もしも、1年程度継続発注したら、その後は様子をみるために半年程度契約をなくしてみるのが良いでしょう。

また、経営や決済者にいい顔をするあまり、現場への接し方が厳しすぎる ケースもよく批判されています。このように現場から信頼を集められないコーチは、サポートがうまくいく筈もありません。このような兆候を感じた場合は、早めにコーチに相談し、改善されない場合は最悪、早めに契約を終了してしまうのがオススメです。

外部支援のコーチを使うからと言って、必ずしもうまくいくとは言えないのが悲しいところです。コーチを選ぶ際には頭の片隅に入れておいてください。

鉄板のアジャイルコーチ導入ルート

先程も説明しましたが、最初の段階では、アジャイルコーチを社内で採用するにしても、育成するにしても、良いアジャイルコーチがどのような人か理解できる人が存在しません。最初に外部支援のアジャイルコーチに入ってもらい、社内へのアジャイルの定着とアジャイルに関する学習を進めることをオススメします。

その後、3ヶ月程度で効果検証として、被支援チームのアジャイルの実践に変化があったのか、プロセスがどのように変わったのか、プロダクトへの取り組み方がどのように変化したか、などを確認します。もし、アジャイルの知識がない場合は、コーチに変化をどう受け取っているか確認するのがよいです。

現場への支援をコーチに任せきりにされる決済者の方もいらっしゃいますが、オススメは、密にコーチと話をし所感を確認したり、決済者に対するアドバイスを受ける ことです。そうすることでアジャイルな組織になるために邪魔している制度や、上位職の方の振る舞いがあれば、それを知り改善することができます。

そして、訪問してくれている外部支援のコーチに対して、社内でもアジャイルコーチや、アジャイルの推進者を育てたいことを伝え、外部支援のコーチと一緒に適性をみたり、育成をしていきましょう。社内コーチを採用する場合は、採用の場に同席してもらうのも有用です。

社内での展開方法 育成vs採用

社内で展開するときに悩むことは、採用するのか、育成するのか、であると思います。私もこれまで何人かアジャイル未経験者を社内アジャイルコーチに育てたことがありますが、ある程度素養のある方を週1訪問で1〜2年弱かかりました。

社内アジャイルコーチを育てる際によく失敗するのは、素養のある人ではなく、リソースに余裕がある人を選んでしまう 場合です。この場合は、アジャイルコーチの業務をお願いしてからパフォーマンスが上がらず困ってしまうなんてこともザラにあります。アジャイルコーチは、多くのチームの支援をするために、その人の能力が多くの組織に影響を及ぼします。会社の事情があるのもわかりますが、意欲があり、優秀な方を配置してもらえたらと思います。

素養のある人と抽象的に説明していましたが、私の判断基準を具体的に説明すると、意欲があり、主体的に学び行動できる人であること が重要だと思っています。できれば学んだことを抽象化し他のチームでも活かすには経験の内省能力も必要になります。新しい情報を書籍やカンファレンスからキャッチして、現場に浸透させていくには多くの学習や内省が必要となります。いつまでも外部支援のコーチがいるわけではないので、外部支援のコーチが居なくなっても学習を続け組織に貢献してくれる人 である必要があります。

アジャイルコーチとしてパフォーマンスを出してくれる人を育てるのには、年単位で時間がかかるとはいえ、必ずしも最後までアジャイルコーチが伴走しないとコーチになれないかと言われたらそんなこともないです。本人の頑張りがあれば、いくらでもなんとかなります。最初はコーチからアドバイスをもらいながら学習することを勧めますが、あとはやる気次第かなと。

とはいえ、すでにアジャイルコーチとしての能力がある人を採用するれば解決するとも一概に言えません。なぜなら、アジャイルコーチとして、すでに活躍している人は転職するまでの期間が短い 傾向にあるからです。私もコミュニティで定期的にいろいろなアジャイルコーチと接していますが、5年いてくれたらいい方ではないかと思う。5年あれば、社内にアジャイルが浸透できる規模の会社なら、一度採用して社内を改善してもらえればいいでしょうし、そうでなければ、また別のコーチを採用する必要があるでしょう。

もちろん、社内でアジャイルコーチを育成した場合には転職されないというわけではありませんが、すでに活躍している人が採用された場合に短期間で転職する傾向があるように感じます。

状況に適したコーチの選び方

ここまで、コーチの活用方法や、社内での採用や育成について説明してきました。 まだ、外部支援を受けていない方であれば、外部コーチをお願いしようかなと考えているかと思います。とはいえ、アジャイルコーチを名乗る人であればどんな人でもいいかというと、そんなことはありません。ここからは、状況に適したコーチの選び方をご説明していきます。

コーチにはそれぞれ得意分野があり、全部カバーしているコーチはほとんどいません。そのため、社内の課題に応じたコーチを選ぶことも重要です。

  1. 技術寄りのコーチ
  • エンジニアリングプラクティスに強い
  • コードレビューを通して技術力向上を支援
  • 技術的負債の解消を支援できる
  1. プロダクト寄りのコーチ
  • プロダクトのグロース戦略を支援
  • 顧客価値の定義と検証を支援
  • プロダクトオーナーの育成を支援
  1. チームビルディング寄りのコーチ
  • スクラムイベントの進行や改善を支援
  • チーム内の対立解消やモチベーション向上を支援
  • スクラムマスターの育成と成長を支援
  1. 組織寄りのコーチ
  • 部門間の連携改善に強い
  • マネジメント層への働きかけを得意とする
  • 組織構造の改善を支援できる
  1. 経営寄りのコーチ
  • 障害になっている社内の仕組みを取っ払う
  • 中間管理職のマインドセットを変革できる
  • 経営課題とアジャイルを紐付けて説明できる

技術寄りのコーチ

技術寄りのコーチ は、スキルの高いエンジニア兼アジャイルコーチです。コードを書くのが好きな人が多く、技術的なアドバイスを積極的にくれます。社内で技術力の育成が得意でないなら、お願いしてコードレビューやペアプログラミング、技術選定などを通して開発者の技術力育成に力を貸してもらうのが良いでしょう。テスト駆動開発やCICDの仕組みができていないなら、喜んでレクチャーしてもらえるでしょう。エンジニア経験が長かったり、技術的な情報発信が多い方が該当します。

プロダクト寄りのコーチ

プロダクト寄りのコーチ は、プロダクトオーナー経験豊富なアジャイルコーチです。プロダクトのグロースや、マーケティング、意思決定などに精通しています。toBとtoCのサービスで得意領域が異なる場合があるので、どんなプロダクトの支援が得意なのか聞いてみることがおすすめです。社内のプロダクトオーナー、プロダクトマネージャーの業務をパフォーマンスアップさせたいときにお願いしたい存在です。プロダクトマネジメント経験が長かったり、マーケティングや、プロダクトマネジメントに関する情報発信が多い方が該当します。

チームビルディング寄りのコーチ

チームビルディング寄りのコーチ は、スクラムマスター経験が豊富なアジャイルコーチが多いです。スクラムイベントの進行や改善方法の提案だけでなく、チーム内の対立の解消や、モチベーション向上のための施策を提案し伴走してくれます。また、チーム内でのスクラムマスターへの適任者がわからない場合は相談から始めると、うまくチームが回ります。チームや組織のパフォーマンスを高めるために、スクラムマスター育成 や、チーム運営のサポートを積極的にしてくれます。心理学や文化人類学に詳しい人がいらっしゃいます。スクラムマスター経験が長かったり、ソフトスキル、人の気持ちに関わる発信が多い方が該当します。

組織寄りのコーチ

組織寄りのコーチ は、マネージャー経験が豊富なコーチが多いです。組織デザイナーとしてのサポートも行います。複数のスクラムチームが存在する場合、チーム連携、仕組みづくり、組織構造の提案などアドバイスを貰えます。また、アジャイルを導入すると同時に悩ましい問題になる人事評価に関する悩みや、メンバーのキャリア設計についても詳しいアドバイスがもらえます。組織の成長が早いベンチャーや、あまり組織づくりに注力したことのない中小企業にピッタリです。マネージャー経験が長く、組織論に関する発信が多い方が該当します。

経営寄りのコーチ

経営寄りのコーチ は、経営者経験のあるコーチで、経営者の気持ちに寄り添って、経営者の気持ちに沿った変革をサポートしてくれます。そのため、経営者がアジャイルのことを理解してくれないといった管理職からの悩みにも強い効果を発揮します。また、メンバーのパッションを高めることも得意な方がいらっしゃって、講演を依頼するのも効果的です。アジャイル型の組織に変えていくために大きな変革をする予定のある方が相談するのにぴったりです。全社変革やアジャイルトランスフォーメーションのケーススタディを多く持っている方が多いです。

各タイプのコーチは、それぞれに得意分野が異なりますが、実際には複数の特性を併せ持つコーチも多くいます。組織の課題や目指す方向性に応じて、最適なコーチを選択することが重要です。また、複数のコーチを組み合わせて支援を受けることで、より包括的な改善を実現できる場合もあります。

アジャイルコーチは、それぞれ同業種で関係性を持っていることが多く、自分の得意領域でなければ紹介してもらうという方法も使えます。採用と同様に、紹介であれば失敗率を下げることも可能です。私への依頼でなくとも、コーチの紹介もできますので、もしよろしければこちらからご相談ください。

まとめ

1. アジャイルコーチ活用の基本的な進め方

  1. まずは外部支援から始める(3ヶ月程度)
  • 効果を確認しながら継続判断
  • 現場とコーチの相性を確認
  • 決済者も密にコミュニケーションを取る
  1. 効果が出れば段階的に社内展開を検討
  • 社内育成か採用かを見極める
  • 外部コーチのサポートを受けながら進める
  • 1年程度の支援後、半年程度の様子見期間を設ける

2. 成功のための重要ポイント

  1. コーチ選びのポイント
  • 組織の課題に合った特性(技術/プロダクト/チームビルディング/組織/経営)を持つコーチを選ぶ
  • 他のコーチからの紹介を活用する
  • 見分け方は情報発信内容や経歴から判断
  1. 社内展開時の注意点
  • リソースありきではなく、適性のある人材を選ぶ
  • 継続的な学習意欲を重視
  • 長期的な視点での人材育成計画を立てる
  1. 失敗を防ぐために
  • 3ヶ月での効果確認を必ず行う
  • 現場からの信頼を得られているか確認
  • 知見の内部定着に注力する

次のステップ

組織の状況に応じて、以下のアクションをお勧めします:

  1. 2チーム以上の組織
    → 外部アジャイルコーチへの相談を検討


  2. すでに外部支援を受けている組織
    → 効果測定と社内展開の検討


  3. 社内展開を進めている組織
    → 育成・採用計画の見直し


アジャイルコーチの支援を受ける際は、まずは外部支援から始め、効果を確認しながら段階的に社内への展開を進めることで、より確実に組織のアジャイル化を進めることができます。

もし、よろしければこちらから、ご相談ください。アジャイルの支援でも、コーチの紹介でも承れます。

本記事は、8年以上のアジャイルコーチとしての実務経験と、実際の支援現場での学びをもとに作成しています。採用プロセスの詳細については、人事の専門家やアジャイルコーチの採用経験者にもご相談ください。

この記事を書いた人
kawagoi

SM、アジャイルコーチ歴8年
Yahoo6年間→永和SM2年→フリーSM2年
20社コンサル・講演20回以上・著書7冊
教育心理学・スクラムマスター・1on1・リーダーシップ

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