要約
Gallupの2024年State of the Global Workplaceレポートは、世界160カ国以上、230万人以上の従業員データを分析し、従業員エンゲージメントの現状と、それが組織パフォーマンスに与える影響を明らかにしています。
主な発見:
- 世界の従業員の23%のみが真にエンゲージしており、この低いエンゲージメント状態により、世界経済は年間約8.9兆ドル(GDPの約9%)の損失を被っている
- エンゲージメントの高い組織は、収益性で23%、生産性で最大18%の優位性を示す
- チームのエンゲージメントの70%はマネージャーの影響によるもの
- 労働法制の充実とエンゲージメントは対立せず、両者が揃うことで最高の結果が得られる
- リモートワークとハイブリッドワークが従業員の孤独感とエンゲージメントに新たな影響を与えている
このレポートは、エンゲージメントが単なる従業員満足度の問題ではなく、組織の持続的成長と競争力に直結する重要な経営課題であることを示しています。
エンゲージメントの定義と測定
エンゲージメントの3分類
Gallupは従業員を以下の3つのカテゴリーに分類しています:
- エンゲージしている従業員(23%)
- 仕事と職場に強く関わり、熱意を持っている
- 心理的なオーナーシップを持ち、パフォーマンスとイノベーションを推進する
- 組織を前進させる
- エンゲージしていない従業員(62%)
- 仕事と会社に対して心理的な愛着がない
- エネルギーや情熱を注がず、いわゆる「静かな離職」状態
- 時間は費やすが、価値ある貢献は限定的
- アクティブに不満を持っている従業員(15%)
- 不満を積極的に表明し、時にそれを行動で示す
- ニーズが満たされていないことへの怒りを感じている
- エンゲージしている同僚の成果を損なう可能性がある
エンゲージメントの測定方法:Q12
Gallupは「Q12」と呼ばれる12の質問を使用してエンゲージメントを測定します。これらの質問は、数十年にわたる研究から導き出された、職場での効果的なエンゲージメントの核心的要素を反映しています:
- 私は、職場で自分に何が期待されているのかを知っている
- 私は、仕事をうまくこなすために必要な道具と材料を持っている
- 私は、毎日、自分の得意なことを仕事で活かす機会がある
- 過去7日間で、良い仕事をしたことを認められたり、褒められたりした
- 上司や同僚は、一人の人間として私のことを気にかけてくれている
- 職場には、私の成長を後押ししてくれる人がいる
- 職場では、私の意見が重視されているようだ
- 会社の使命や目的は、私の仕事を重要だと感じさせる
- 私の同僚は、質の高い仕事をすることに全力で取り組んでいる
- 職場に親友がいる
- 過去6ヶ月の間に、誰かが私の成長について話をしてくれた
- この1年で、職場で学び、成長する機会があった
エンゲージメントが組織パフォーマンスに与える影響
Gallupの2024年のメタ分析(90カ国、53産業、183,000以上のビジネスユニット)は、エンゲージメントと組織パフォーマンスの関係について、これまでで最も包括的な知見を提供しています。
財務・生産性への影響
エンゲージメントの高いビジネスユニットは、低いユニットと比較して以下のような優位性を示しています:
収益性において23%の向上が見られ、これは直接的な財務的価値を生み出しています。生産性においても、売上ベースで18%、生産記録と評価において14%の向上が確認されています。この生産性の向上は、エンゲージした従業員が自発的に効率的な業務遂行方法を見出し、実行していることを示唆しています。
人材・組織コストの削減効果
人材関連のコストにおいても顕著な改善が見られます:
離職率は組織の特性によって異なる効果を示し、高離職率の組織で21%、低離職率の組織では51%の改善が見られます。この差は、安定した組織においてエンゲージメントがより強力な人材維持要因となることを示しています。
さらに、欠勤率は78%という劇的な減少を示しています。これは、エンゲージした従業員が仕事に対してより強い責任感と目的意識を持っていることを反映しています。
品質と安全性への影響
品質管理と安全性の面でも重要な改善が見られます:
- 品質(不良品)が32%減少
- 安全性に関するインシデント(事故)が63%減少
- 医療分野での患者の安全インシデントが58%減少
- 商品の紛失(万引きなど)が28%減少
これらの数字は、エンゲージした従業員がより注意深く、責任を持って業務に取り組んでいることを示しています。
顧客満足度とロイヤルティ
顧客関連の指標においても、エンゲージメントは重要な影響を与えています:
顧客ロイヤルティとエンゲージメントが10%向上しているという事実は、従業員のエンゲージメントが直接的に顧客体験の質を高めることを示しています。これは、エンゲージした従業員が顧客により良いサービスを提供しようとする内発的な動機を持っているためと考えられます。
組織全体への波及効果
エンゲージメントの効果は、個別の指標を超えて組織全体に波及します:
- 組織市民行動(自発的な貢献)が22%向上
- 従業員のウェルビーイング(充実度)が70%向上
特に注目すべきは、これらの効果が累積的であるという点です。エンゲージメントが最も高い上位1%のビジネスユニットは、最下位1%と比較して、成功確率が約5倍高くなっています。
マネージャーの重要性と課題
マネージャーの影響力
Gallupの研究によると、チームのエンゲージメントの約70%はマネージャーの影響によるものとされています。この数字は、マネージャーの役割が組織の成功にとって決定的に重要であることを示しています。
ベストプラクティスの組織では:
- マネージャーの75%がエンゲージしている
- 一般従業員の70%がエンゲージしている
- エンゲージしている従業員とアクティブに不満を持つ従業員の比率は14:1
これは世界平均の11倍という驚異的な数字であり、マネージャーのエンゲージメントが組織全体に波及する効果を持つことを示しています。
マネージャー自身の課題
しかし同時に、マネージャー層は深刻な課題に直面していることも明らかになっています:
- マネージャーは一般従業員よりも高いストレスを報告
- 怒り、悲しみ、孤独感も一般従業員より強く感じている
- 転職意向も一般従業員より高い傾向にある
これらの発見は、マネージャーのウェルビーイングをサポートすることが、組織全体の健全性維持に不可欠であることを示唆しています。
新しい働き方とエンゲージメント
リモートワークの影響
2024年のレポートでは、働き方の違いによるエンゲージメントの差異も明らかになっています:
- フルリモート:29%
- ハイブリッド:21%
- オフィス勤務:20%
この結果は、柔軟な働き方がエンゲージメントにポジティブな影響を与える可能性を示唆しています。
孤独感の課題
一方で、新しい働き方は新たな課題ももたらしています:
- 世界の従業員の20%が日々の孤独感を報告
- フルリモートワーカーの孤独感(25%)は、オフィスワーカー(16%)より顕著に高い
- ただし、仕事をすること自体は孤独感を軽減する効果がある(失業者の32%が孤独感を報告)
労働法制とエンゲージメントの関係性
相互補完的な関係
従来、労働法制の充実度とエンゲージメントは逆相関すると考えられてきましたが、2024年の分析はより複雑な関係性を明らかにしています。
特に以下の分野の労働法制は、従業員の現在の生活満足度と強い相関を示しています:
- 出産・育児関連の保護
- 公正な賃金
- 社会保障
- 雇用の安定性
- 公平な待遇
- 安全性
これらの保護が整った環境で高いエンゲージメントを実現している従業員は、最も良好なメンタルヘルス状態を示しています。
組織におけるベストプラクティス
高いエンゲージメントを実現し維持している組織に共通する3つの重要な特徴が明らかになっています:
1. マネージャーの採用と育成への戦略的投資
成功している組織では、マネージャーの選定と育成を最重要課題として位置づけています:
- 採用段階から、チームのエンゲージメントを引き出す才能を持つ人材を見極める
- 効果的なコーチングスキルを体系的に育成する研修プログラムを実施
- 部下に対して意味のあるフィードバックを継続的に提供できる能力を開発
- マネージャー自身のウェルビーイングをサポートする体制を整備
2. エンゲージメントの組織的な統合
エンゲージメントを一時的なプログラムではなく、組織の基盤として位置づけています:
- 採用から退職まで、全ての人事プロセスにエンゲージメントの視点を組み込む
- 目標設定、評価、1on1、チームミーティングなど、日常的なマネジメントプロセスの中にエンゲージメントの要素を織り込む
- エンゲージメントを組織文化の中核的要素として定着させる
- 定期的な測定と改善のサイクルを確立する
3. 総合的なウェルビーイング戦略
従業員のウェルビーイングを包括的に支援する取り組みを行っています:
- 専門のウェルビーングチームやカウンセラーを配置
- 身体的健康、メンタルヘルス、財務リテラシーなど、多面的なサポートを提供
- コミュニティ活動への参加を奨励し、社会的つながりを強化
- 柔軟な働き方を提供しながら、孤立を防ぐための工夫を実施
世代別の課題と対応
2024年のレポートで特に注目されているのが、世代による違いです:
若手従業員の課題
35歳未満の従業員において、特徴的な傾向が見られます:
- ウェルビーイングの低下が顕著
- 10年前とは異なり、現在は年長の従業員の方が高い充実度を示す
- この変化は単なる年齢による差ではなく、世代特有の課題である可能性が高い
必要とされる対応
世代による違いに対応するため、以下のようなアプローチが推奨されています:
- 若手従業員特有のニーズと価値観の理解
- キャリア開発機会の拡充
- メンタリングやコーチングの強化
- 世代間のコミュニケーションを促進する取り組み
- 柔軟な働き方とワークライフバランスの支援
結論:これからの組織に求められること
2024年のGallupレポートは、エンゲージメントが組織の成功に不可欠な要素であることを、かつてないほど明確に示しています。特に重要な示唆として:
- エンゲージメントへの投資は、測定可能な経営成果につながる戦略的投資である
- マネージャーの役割が決定的に重要であり、その育成と支援に注力する必要がある
- 労働法制の充実とエンゲージメントは対立せず、両立させることで最高の成果が得られる
- 新しい働き方がもたらす機会と課題の両方に目を向ける必要がある
- 世代による違いを理解し、適切に対応することが求められる
これらの知見を活かし、組織の持続的な成長と従業員の充実を同時に実現することが、これからの組織に求められる重要な課題となっています。
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