はじめに
サーバントリーダーシップという言葉を聞いたことがありますか?「サーバント(奉仕者)」と「リーダー」という、一見矛盾する2つの言葉を組み合わせたこの概念は、現代のリーダーシップ論において大きな注目を集めています。本記事では、最新の研究レビューと代表的な測定尺度を紐解きながら、サーバントリーダーシップについて理解を深めていきましょう。
サーバントリーダーシップ研究の発展
研究の3つのフェーズ
Eva et al.(2019)によるシステマティックレビューによれば、サーバントリーダーシップ研究は以下の3つのフェーズを経て発展してきました:
- 概念化フェーズ(1970年代〜)
- Greenleafによる基本概念の提唱
- 理論的基盤の構築
- 主に概念的な議論が中心
- 測定フェーズ(2000年代前半〜)
- 様々な測定尺度の開発
- 横断的研究の実施
- 実証研究の基盤構築
- モデル開発フェーズ(現在)
- より洗練された研究デザイン
- 先行要因の解明
- 媒介メカニズムの特定
- 境界条件の検討
サーバントリーダーシップの新しい定義
Eva et al.(2019)は、これまでの研究を統合し、サーバントリーダーシップを以下の3つの本質的要素から定義しています:
- 他者志向のアプローチ
- リーダーの動機が自己の外側にある
- 利他的な姿勢に基づく行動
- 自己実現よりも他者の成長を重視
- 一対一の優先順位付け
- フォロワー個々のニーズを重視
- 個別的な関係性の構築
- それぞれの可能性を最大限に引き出す
- 関心の外向きの再方向付け
- 自己から他者への関心の移行
- 組織全体への貢献
- より大きな社会への責任
代表的な測定尺度の詳細
Liden et al.(2015)のSL-7
概要:
- 7項目の短縮版尺度
- オリジナルの28項目版から抽出
- 実用性と理論的妥当性のバランス
測定する7つの次元:
- 感情的な癒し
- フォロワーの個人的な問題への関心
- 精神的なサポートの提供
- コミュニティ価値の創造
- 組織を超えた社会貢献
- コミュニティ活動の奨励
- 概念的スキル
- 問題解決能力
- 組織目標の理解と達成
- エンパワーメント
- 権限委譲
- 自律性の支援
- 部下の成長と成功の支援
- キャリア開発の支援
- 潜在能力の開発
- 部下優先
- フォロワーのニーズを最優先
- 自己犠牲的な姿勢
- 倫理的な行動
- 誠実さと信頼性
- 模範的な行動
特徴:
- 各次元を1項目で測定
- 高い実用性
- 簡便な実施が可能
- 組織での使用に適している
信頼性と妥当性:
- 内的一貫性信頼性は.80以上
- 基準関連妥当性が確認済み
- クロスカルチャーでの使用可能
Sendjaya et al.(2018)のSLBS-6
概要:
- 6項目の短縮版尺度
- オリジナルの35項目版からの抽出
- スピリチュアリティの次元を含む点が特徴
測定する6つの次元:
- 自発的な従属
- 権利や利益の放棄
- 他者への奉仕の姿勢
- 本来の自己
- 真摯な自己表現
- アカウンタビリティの重視
- 契約的関係
- 深い信頼関係の構築
- 相互の価値共有
- 責任ある道徳性
- 道徳的推論の促進
- 倫理的行動の実践
- 超越的なスピリチュアリティ
- 意味と方向性の醸成
- 相互のつながりの認識
- 変革的影響力
- 個人的・専門的成長の支援
- 可能性の実現
特徴:
- スピリチュアリティの重視
- 包括的なアプローチ
- 理論的基盤が堅固
信頼性と妥当性:
- 内的一貫性信頼性は.89以上
- 収束的妥当性が確認済み
- 異文化間での適用可能性
van Dierendonck & Nuijten(2011)のSLS
概要:
- 30項目版(短縮版18項目)
- サーバントとリーダーの両側面を包括
- 8つの次元から構成
測定する8つの次元:
- エンパワーメント
- 自己主導的な意思決定の促進
- 情報共有の促進
- コーチング的アプローチ
- 個人の価値の認識
- アカウンタビリティ
- 明確な責任の付与
- 成果に対する責任の共有
- 期待の明確化
- 境界設定による自由の保証
- 後方支援(Standing back)
- 他者の利益の優先
- 成功時の称賛の譲渡
- サポート的な姿勢の保持
- 謙遜
- 自己の限界の認識
- 失敗を認める勇気
- 他者の貢献の積極的な受容
- オーセンティシティ
- 内面との一貫した表現
- 約束の遵守
- 脆弱性の受容
- 勇気
- リスクを取る姿勢
- 新しいアプローチの試行
- 強い価値観に基づく行動
- 赦し
- 過ちに対する寛容さ
- 新たな機会の提供
- 学習志向的なアプローチ
- スチュワードシップ
- より大きな組織への責任
- サービス重視の姿勢
- 長期的な視点の保持
特徴:
- 詳細な多次元評価が可能
- 文化間での妥当性を確認
- 実践的な示唆の提供
信頼性と妥当性:
- 高い内的一貫性(.69〜.95)
- 構成概念妥当性の確認
- 複数国でのバリデーション
尺度の使い分けと実践への示唆
状況に応じた尺度の選択
- 簡易的な評価が必要な場合
- Liden et al.のSL-7
- Sendjaya et al.のSLBS-6
→ 時間的制約がある場合や、定期的なモニタリングに適する
- 詳細な分析が必要な場合
- van Dierendonck & NuijtenのSLS
→ リーダーシップ開発プログラムや組織変革の評価に適する
- スピリチュアリティを重視する場合
- Sendjaya et al.のSLBS-6
→ 価値観ベースのリーダーシップ開発に適する
- 文化的な要因を考慮する場合
- van Dierendonck & NuijtenのSLS
→ グローバル組織での活用に適する
実践上の重要ポイント
- 測定の目的の明確化
- 評価目的の特定
- 組織文化との適合性
- 実施可能性の検討
- 継続的な評価の実施
- 定期的なモニタリング
- 発達的フィードバック
- 改善計画への反映
- 包括的なアプローチ
- 複数の情報源の活用
- 定性的データの併用
- 文脈的要因の考慮
おわりに
サーバントリーダーシップは、現代組織が直面する複雑な課題に対する有効なアプローチとして、その重要性を増しています。3つの代表的な測定尺度は、それぞれ独自の特徴と強みを持ち、状況に応じて適切に選択することで、効果的なリーダーシップ開発と組織変革を支援することができます。
今後は、より精緻な理論的枠組みの構築と、厳密な研究方法の採用により、サーバントリーダーシップの理解がさらに深まることが期待されます。実践においては、これらの測定尺度を活用しながら、継続的な評価と改善を通じて、組織と個人の持続的な成長を実現することが求められています。
サーバントリーダーシップの実践は、短期的な成果を求めるのではなく、長期的な視点で人材と組織の発展を目指す姿勢が重要です。これらの測定尺度を効果的に活用することで、より良いリーダーシップの実現に向けた道筋が見えてくるでしょう。
参考文献
- Nathan Eva, Mulyadi Robin, Sen Sendjaya, Dirk van Dierendonck, Robert C. Liden (2019) “Servant Leadership: A systematic review and call for future research”
- Liden, R. C., Wayne, S. J., Meuser, J. D., Hu, J., Wu, J., & Liao, C. (2015). “Servant Leadership Scale-7”
- Sendjaya, S., Eva, N., Butar Butar, I. et al. (2019) “SLBS-6: Validation of a Short Form of the Servant”
- van Dierendonck, D., Nuijten, I. (2011) “The Servant Leadership Survey: Development and Validation of a Multidimensional Measure”
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