スクラムをはじめとするアジャイル手法は、「幸福度(Happiness)」を重要な先行指標として活用しています。SCRUM—The Art of Doing Twice the Work in Half the Time 第7章「Happiness」では、成果を導く原動力として幸福度を位置づけていますが、さらに踏み込んだ評価軸として、「学習指向性(Learning Orientation)」と「エンゲージメント(Engagement)」を測定することが有益と考えられます。ここでは参考文献中にある「熟達(Mastery)」重視の考え方や「フロー理論(Flow)」への言及を受け、学習指向性とエンゲージメントという二つの要素を取り入れる意義を示します。
熟達から導く学習指向性(Learning Orientation)
参考文献では、チームが単純なタスク処理に留まらず、継続的なスキル向上や問題解決能力の研鑽といった「熟達(Mastery)」を重視する姿勢が求められています。ここで注目すべきが学習指向性です。学習指向性とは、個人やチームが学びや改善、能力向上に積極的に取り組む特性を指します。学習指向性が高いチームは、新しい開発手法や技術を柔軟に取り入れ、改善サイクルを回し続けることで、長期的な業績向上やイノベーション創出を促進することが、組織行動学などの研究で示唆されています。
フロー理論から導くエンゲージメント(Engagement)
一方で、参考文献には、人が最も高い集中力・創造性・満足感を発揮できる「フロー状態(Flow)」への言及もあります。フロー理論では、課題難易度とスキルレベルが適度に釣り合うとき、人は深い集中と充実感を得て、生産性や創造性が最大化されるとされています。
このフロー状態をチームで持続的に引き出すには、タスクに熱中し、やりがいや目的意識を強く感じる「エンゲージメント」が欠かせません。エンゲージメントとは、仕事に対する没頭度や積極的関与度を表す概念で、エンゲージメントが高い組織は離職率低下や顧客満足度向上、業績拡大など、多くの研究によってプラス効果が実証されています。
学習指向性とエンゲージメントが業績に与える影響
学習指向性の高さは、新たな知識・スキルの獲得や改善案の実験を通じて、柔軟で適応的な組織文化を育みます。研究によれば、学習指向性が高い組織やチームは、変化への迅速な対応や新規アイデアの創出を促し、業績向上に結びつく可能性があると報告されています。
また、エンゲージメントが高いチームは、メンバーが自発的に課題解決へ取り組み、顧客価値の最大化に資する行動を継続的に行うため、生産性や品質の向上につながることが多くの調査結果から示唆されています。
まとめ
参考文献で重視される「熟達」から学習指向性という計測軸を導き、フロー理論からエンゲージメント(没頭度)を加えることで、スクラムチームは幸福度の評価だけでは得られない深い洞察を得られます。学習指向性は長期的な成長と変革力を、エンゲージメントは現在の没頭状態と価値創出力を可視化し、これら二つは研究によって業績改善との関連性も示されています。
これら3つの指標(幸福度・学習指向性・エンゲージメント)を統合的に捉えることで、スクラムチームはより持続的かつ高次元の成果創出を目指せるでしょう。
コメント