はじめに
スクラムマスターはやることやスキルに対しての説明が抽象的で、どうやったらパフォーマンスが出せるのか悩んでいるがいらっしゃるのではないかと思います。これまで何度かスクラムマスターで集まってスキルマップを作ろうとしましたが、幅が広く時間がかかるため頓挫してしまいました。
実は、私もスクラムマスターを始めたころは何を学べばいいか分からず、先輩からコーチングがいいと言われればコーチングを学び、アジャイル系の本を学ぼうと手当たり次第にアジャイル関係の本を読んだりして、何をどう学んでいるか方針が決められず、どの程度身につけたらいいのかも分からず困っていました。
アジャイルコーチとして、これまで多くのスクラムマスターを育成・支援してきて、活躍するために必要なスキルが見えてきていることもあり、困っている方の役に立てばと、スクラムマスターのスキルマップを作成しました。 このスキルマップを使うことで、次に学ぶものが明確になり、自分が何をどこまで身につけたか可視化することもできるようになります。
スキルマップ
スキルマップは、レベルの低い順に初級2つ、中級2つ、上級0〜2つとしています。

アジャイル基礎
- スクラムの3つの役割、5つのイベント、3つの作成物(3・5・3)を説明できる
アジャイルマニフェストの4つの価値基準を説明できる
スクラムの基本プラクティスを実践 - アジャイルマニフェストの12の原則を実践に結びつけて説明できる
プロジェクトの基本的な制約(QCDS)を理解している
プロジェクトの状況に応じてQCDSの優先順位を説明できる - 複数のアジャイル手法(XP、Kanban等)の特徴と適用場面を説明できる
アジャイルな見積もりと計画づくりの手法を効果的に適用できる
QCDSの観点からプロジェクトの健全性を評価・改善できる - アジャイル手法の組み合わせやカスタマイズを提案・実践できる
プロジェクトの特性に応じた独自のメトリクスを設計・活用できる - 組織レベルでのアジャイルプラクティスの導入を主導できる
POの支援
- POの役割を説明できる
POのバックログ整理、リファインメントを手伝える - Customer Journey Map(CJM)やUser Story Mapping(USM)の基本的な活用を支援できる
POとチームの協働を効果的にファシリテートできる - ペルソナ作成、ユーザーインタビュー、Lean Canvasなどの手法を活用して
バックログの質を向上できる
POの市場分析や顧客理解を深めるための支援ができる
バリューストリームの最適化についてPOにアドバイスできる - マーケティングの知識を活用してPOの意思決定を支援できる
財務・会計の観点からプロダクトの投資対効果を評価・提案できる
複数のプロダクトライン間の調整をサポートできる - 複数のPOの育成・成長を支援できる
組織全体のプロダクトマネジメントの改善を主導できる
プロダクト戦略と組織戦略の整合性を確保する支援ができる
Dev支援
- 開発者の役割と責任を正確に説明できる
基本的な開発プラクティスの目的を理解している
デイリースクラムでの開発者間の対話を促進できる - ペアプログラミングの導入と実施を支援できる
開発チームの自己組織化を促進できる
技術的負債に関する議論を建設的に導ける - TDD、ペアプロ、モブプロなどの実践的な導入を支援できる
開発プラクティスの改善をチームと共に推進できる
技術的な意思決定プロセスを効果的にファシリテートできる - モブプログラミングに参加し、プロセスや対話の改善点を指摘できる
エンジニアリング・プラクティスの組織的な改善を推進できる - エンジニアリング文化の醸成と進化を促進できる
組織全体の技術的エクセレンスを推進できる
技術的リーダーシップの育成を支援できる
障害物除去
- 代表的な障害物を説明でき、具体例を挙げられる
基本的な障害物をSMが自分で解決できる
チームへの不要な干渉を認識し、基本的な防御ができる - 簡単な障害物を見つけ、チームメンバーに解決を促すことができる
チームが気づいていない障害物を発見し、可視化できる - 複雑な障害物や根深い問題を特定し、SMが解決できる
チームが自ら障害物を発見できるように支援できる
組織レベルの障害物に対して、適切な対応策を提案できる - チームが自律的に障害物を発見し、解決できるよう導ける
組織的な構造上の問題や根深い課題に対して、チームでの解決を促進できる
複数チームに影響を与える障害物の解決を主導できる - 組織レベルの構造的な障害物の解決を主導できる
チームが補助なしで複雑な問題解決を実行できるよう成長を支援できる
イベントファシリテーション
- デイリースクラムを15分以内に完了できる
基本的な見積もりのサポートができる
スプリントプランニングの進行ができる - レトロスペクティブで時間内に次のアクションを決められる
チーム全員がイベントで発言できるよう促進できる
スプリントレビューでデモを効果的に実施できる - 各スクラムイベントのプラクティスの理由を説明できる
チームの文脈に応じてイベントをカスタマイズできる
イベントの効果を測定し、改善を提案できる - イベントの価値を高め、チームの成長を促進できる
困難な状況でも効果的なファシリテーションを実現できる
異なるステークホルダー間の対話を効果的に促進できる - 見学者やステークホルダーにイベントの意義を伝え、高い評価を得られる
組織全体のイベントファシリテーション能力の向上を主導できる
メトリクスの活用
- スプリントバーンダウン、ベロシティなどの基本的なスクラムメトリクスを定期的に収集
- 収集したメトリクスからチームの課題を特定し、具体的な改善提案ができるようになる
- 技術的負債、品質指標、チーム健全性など、多角的なメトリクスを収集・分析
- 組織の目標や戦略に合わせて新しいメトリクスを定義・導入し、その効果を検証できる
- 組織レベルとチームのメトリクスを関連付け、より大きな文脈での改善を推進できる
メトリクスに基づき中長期的な改善計画を立案・遂行
サーバントリーダーシップ
- サーバントリーダーシップとは何か説明できる
- 自分の立場で、サーバントリーダーシップを実践すると何ができるのか説明できる
- 時に、過度に介入してしまうが、主にチームが自分たちで進められるように支援している
- チームの対立を建設的に解決できる
- メンバーの成長に焦点を当て、個々の強みを活かせる機会を積極的に創出している
- 組織全体にサーバントリーダーシップの考え方が浸透している
コーチングチーム
- チームミーティングにおいて、基本的な対話の促進ができる
全員が意見を出せる場を作りができる。 - チームの意思決定プロセスを支援し、全員が納得できる解決策を見出せるよう導ける
- チーム内の関係性やコミュニケーションパターンを観察し、適切なタイミングで介入できる
- チームが自律的に問題を発見し、解決できるような対話の場を作れる
- チームの発達段階を理解し、長期的な成長を見据えた支援ができる
チームの心理的安全性を高め、建設的な対立を通じチームが成長できる。
コーチングパーソナル
- コーチングを実施する目的を説明できる
- GROWモデルを使ってコーチングできる
オープンクエスチョンで「相手」の話したいことを聞ける - メンバーの目標設定できる。メンバーがその目標に向かって行動を起こせる
- 相手の可能性や強みを見出し、それを活かした成長プラン策定を支援できる
- メンバーがコーチングに感謝している。メンバーが成長を感じられる
- 他のスクラムマスターのコーチングのスーパーバイザーができ、パフォーマンスを出せる
傾聴
- 話し手の言葉に意識を向けようとするが断続的、理解浅い
事実確認のみで、相手の感情にあまり触れない - 相手の話に興味を持ち、要約し返すなど基本的な傾聴スキルを用いるが
判断的・助言的態度が混ざりやすい - 相手の立場や感情を想像しながら聞き、判断せず受け止めようとする
情報でなく感情や価値観に耳を傾け、安心できる雰囲気を形成 - 相手の主観的世界観を尊重し、理解しづらくても否定せず
安心できる空間を提供。相手は本音や揺れ動く感情を表しやすくなる - 聴き手自身が自然体で、相手を丸ごと受け止める空気を醸成
相手は更なる内省を行い、自己変容や前向きな行動につなげやすくなる
メンバーを知る
- メンバーの基本的特性(得意・苦手、コミュニケーションスタイル)を観察・把握できる
- 1on1を通じて、メンバーの価値観、キャリア志向、モチベーション源泉を理解
行動・発言の背景にある考え方や感情を察知できる - メンバーの状態や成長を継続的にモニタリングし、微妙な変化にも気づける
モチベーション変化や疲労兆候を早期察知し、予防的支援可能 - 潜在的可能性や未発掘の強みを見出し、チーム全体のダイナミクス中で最適な役割・成長機会を提案できる
- メンバー一人ひとりについて専門性・志向性・価値観・人間関係を総合的に理解
組織文脈で最適な活用方法を見出せる
信頼構築対SM
- 信頼構築の重要性を理解し、具体的な手法を説明できる
チームから信頼される行動を1種類実行・継続できる - チームから信頼される行動を2種類以上実行・継続
メンバーの価値観や考えを理解しようと努める
フィードバックを受け入れ、行動改善できる - SMになら何でも話せる状態の人が1人以上いる
メンバーの個性に応じたコミュニケーション方法を選択できる
困難な状況でも信頼関係維持可能 - 信頼関係に基づき、建設的な反論や困難な提案が可能
複数の信頼構築アプローチを状況に応じて使い分けられる - メンバーの価値観や志向性を深く理解し、適切な支援が可能
SMになら何でも話せる状態の人が複数いる
全員がSMになら何でも話せる状態
組織全体の信頼構築改善を主導可能
信頼構築対チーム
- チーム内の基本的なコミュニケーションを促進し、相互理解を支援できるようになる
ドラッカー風エクササイズを企画・ファシリできる - チーム内でコミュニケーションを取る時間が確保されている
- メンバーが安心して互いにフィードバックを交換できる環境を作ることができる
- チームメンバーが互いの強みを理解し、それを活かし合える関係性を構築できる
- メンバー同士が互いの成長を喜び合い、チーム全体の成功を自分事として捉える。この信頼関係を基盤として、チームが革新的な挑戦や困難な課題に立ち向かうことができる。
心理的安全性
- 心理的安全性があると、どのような効果があるか説明できる
- 心理的安全性を高める施策を1種類以上実行・継続できる
- わからないことがあるときに、全員が全員に聞くことができる(難しい人を除く)
- プロダクトや組織を良くするための議論で反論があっても意見をぶつけ合える
- ネガティブなフィードバックも成長の機会として捉えられる。
説得と提案
- 説得に必要な要素を列挙できる
基本的な論理展開ができる
相手の立場を考慮した提案ができる - 誰かに提案しOKをもらえる
提案内容をわかりやすく説明できる
相手の反応を見ながら説明を調整できる - 関係値が高くない相手にも提案しOKをもらえる
複数観点から提案価値を説明できる
反対意見に対し建設的対話可能 - 一度OKをもらった提案を覆されない
複数ステークホルダーの利害調整可能
長期的価値を示す提案ができる - コスト大でも関係値が高くない相手に提案しOKをもらえる
組織戦略目標に合致した提案ができる
複雑状況下で効果的な合意形成ができる
問題解決
- レトロスペクティブを実施し、問題が解消されている
- 物事の因果関係と相関関係を説明でき、例示できる
- TOCfEのブランチか、システム思考で簡単な問題を図示できる(AND条件なし)
- TOCfEのブランチか、システム思考で簡単な問題を図示できる。解決する箇所を特定し、対策を打てる。
- チーム内で問題解決の文化を育て、メンバー自身が問題分析と解決のスキルを身につけられるよう支援できる
アセスメント
- アセスメントツールについて知っている
- 主要なアセスメントツールの基本的な特徴と目的を理解し、適切なタイミングでの実施を提案できるようになる
- アセスメントの結果毎に、どんな接し方をすればいいのか説明できる
- アセスメント結果を個人の状況や文脈に合わせて解釈し、具体的な成長支援に活用できる
- チームメンバーのアセスメント結果を使って、価値観にあった接し方ができる。アセスを利用してチームビルディングできる
- アセスメントを組織開発の重要なツールとして戦略的に活用できる。チーム全体のアセスメント結果を分析し、組織の強みや課題を特定。
自己管理
- 感情的になりそうな場面での基本的な自制が可能
マインドフルネスの基礎的な実践 - ストレスマネジメント可
マインドフルネスで自分の感情に気づきやすくなっている
アサーティブに自分の考えを伝えられる。 - ネガティブケイパビリティの概念を理解し、不確実な状況や問題に直面しても、すぐに解決策を求めず耐えることができる
セルフコンパッション可 - 高ストレス状況下でも感情の安定性を保ち、建設的な対話可能
マインドフルネスが日常的習慣化
対話で評価判断をしない - 極めて困難な状況下でも揺るがない感情の安定性を示し、組織全体のロールモデルとなることができる
- 自己の感情制御に関する深い理解と実践経験を基に、他のチームメンバーの感情管理やストレスマネジメントも支援できる
モチベーション
- 内発と外発的動機づけについて説明することができる
- 期待価値理論について説明できる。メンバーのモチベーションの要因を知る。
- 期待価値理論を使って、メンバーのモチベーションを高めることができる。
- モチベーションの原理を知り、自己決定理論を使って、自律的な動機付けができる
- 固定的知能感を増大的知能感に移行させることができる。内発的動機づけの要素を加えることができる。
- メンバーのモチベーションの要素を知り、適切な動機づけができる。それについて根拠を説明できる。
学習知識伝承
- 「」(空欄)
- 「」(空欄)
- メンバーの能力を把握し、発達の最近接領域を意識した支援ができる
メンバー間の相互学習の機会を設定している - 認知的徒弟制の基本概念(モデリング、コーチング、足場かけ)を理解している
- 正統的周辺参加の考え方を取り入れ、新メンバーが徐々に中心的な役割を担えるよう支援可能
より高度な認知的徒弟制の実践(省察、探求)を促進できる - 3つの学習理論を組み合わせて効果的な学習環境を設計
組織全体での知識共有の仕組みづくりをリードできる
学習メカニズム
- 「」(空欄)
- 「」(空欄)
- メタ認知の基本概念を理解し、自身の思考プロセスを観察できる
チームメンバーの学習状態を観察し、基本的なフィードバックができる - メンバーのメタ認知能力を引き出すための質問や対話ができる
熟達化のステージ(初心者→中級者→上級者)を理解し、適切な支援ができる - チーム全体のメタ認知能力を向上させるための施策を実施できる
認知科学の原則に基づいた効果的な学習方法を設計・導入できる - 組織レベルでのメタ認知促進の仕組みを構築できる
認知科学の最新知見を取り入れた革新的な学習方法を開発できる
学習支援
- 「」(空欄)
- 基本的なルーブリックを使って、学習目標を設定できる
- チームメンバーの現在の知識・スキルレベルを簡単なプレテストで確認できる
ガニエの学習5分類のうち、主要な分類(言語情報、知的技能)に基づいた学習支援ができる - プレテストの結果で、個々のメンバーに適した学習計画を立案できる
具体的な評価基準を含むルーブリックを作成し、活用できる
ガニエの学習5分類を意識した多様な学習機会を提供できる - チーム全体の学習ニーズを分析し、包括的な学習計画を立案できる
形成的評価の結果を分析し、学習方法の改善提案ができる - 組織全体の学習文化を醸成し、継続的な改善を推進できる
独自のルーブリック評価システムを確立し、他チームへの展開を支援できる
学習方略
- 「」(空欄)
- 基本的な学習方法(要約、振り返り等)を提案できる
ペアワークなどの基本的な協調学習を導入できる - チームメンバーが互いに教え合う機会を効果的に設計できる
学習内容を構造化して整理し、共有できる - 個々のメンバーの学習スタイルに合わせた方略を提案できる
知識共有の仕組みを体系化し、継続的に改善できる - チーム全体の学習効果を最大化する方略を設計・実施できる
組織的な知識共有の仕組みを確立できる
ステークホルダーマネジメント
- 主要なステークホルダーを特定し、リストアップできる
定期的なステークホルダーミーティングを実施できる
ステークホルダーからの基本的な要求を理解し、チームに伝えられる - ステークホルダー分析を行い、影響力と関心度を評価できる
チームとステークホルダー間の期待値ギャップを認識できる - ステークホルダーマップを作成し、関係性を可視化できる
チームの価値提供を効果的にステークホルダーに示せる - チームの自律性を保ちながらステークホルダーの期待に応えられる
ステークホルダーとの信頼関係を構築し、継続的な支援を獲得できる
スケーリング対応
- 「」(空欄)
- スケーリングフレームワーク(Scrum@ScaleまたはLeSS)の基本構造を理解している
複数チーム間の基本的な調整をサポートできる - 選択したフレームワーク(Scrum@ScaleまたはLeSS)の主要な実践方法を実行できる
複数チームの同期を取るためのイベントをファシリテートできる - スケーリングフレームワークの導入・改善を主導できる
複数チームの impediments を効果的に解決できる - 複数のスケーリングパターンを状況に応じて適用できる
複数チーム間の自己組織化を促進できる
大規模開発特有の課題に対する効果的な解決策を実装できる - 組織規模でのアジャイル変革を主導できる
スケーリングに関する知見を体系化し、組織の資産として確立できる
メンターシップ(新SMの育成)
- 基本的なスクラムの実践知識を他者に説明できる
新任スクラムマスターからの質問に適切に回答できる - スクラムマスターとしての実践経験を体系的に共有できる
実践的な課題解決のガイダンスを提供できる - メンティーの強みを活かした成長プランを作成できる
メンティー同士の学び合いの場を設計・運営できる
メンタリングプログラムの設計と改善ができる - 組織的なスクラムマスター育成の仕組みを確立できる
メンティーの成長に応じて関係性を変化させることができる - 組織全体のメンターシップ文化を確立できる
メンタリングの効果を評価・改善する仕組みを構築できる
業界レベルでのスクラムマスター育成に貢献できる
まとめ
今回、紹介したスキルマップは、私の個人的な経験や支援先での経験を元にして作っています。 もし、必要であればご自身でカスタマイズして使ってもらえたらと思います。
とはいえ、何を学べばいいか分かってもどうやって身につけたらよいか分からない、自分では身につけられる自信がないという方向けに、勉強会や研修を実施しています。勉強会は以下のリンクから。研修はお問い合わせからお声掛けください。
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