アジャイル開発を導入・実践する組織で、よく混同されるのが「アジャイルコーチ」と「スクラムマスター」の違いです。この記事では、まず違いを明確に説明し、その後で理論的な背景も含めて詳しく解説していきます。
要点
- スクラムマスターとアジャイルコーチの主な違いは「関わり方」と「責務の範囲」です
- スクラムマスターは「チームの一員」として常駐し、日々の実践を支援
- アジャイルコーチは「外部の観察者・支援者」として、チームの成長フェーズに応じて支援
- どちらの役割も重要で、組織の状況に応じて適切に組み合わせることが効果的
スクラムマスターとアジャイルコーチの違い
スクラムマスター
関わり方
- 特定の1-2チームを専任で支援
- チームの一員として常駐
- スクラムイベントを主導的にファシリテート
主な責務
- チーム内のコミュニケーション促進
- スプリントの目標達成支援
- チームメンバーの成長支援
- チーム内の課題解決を促進

アジャイルコーチ
関わり方
- 支援範囲は状況に応じて変化
- 外部の観察者・支援者として関与
- スクラムイベントにはオブザーバーとして参加
主な責務
- チームの成長フェーズに応じた支援
- 立ち上げ期:スクラムの基礎確立、チーム形成支援
- 成長期:チーム間連携の改善、パターンの共有
- 成熟期:組織文化の変革、リーダーシップ開発
- 組織全体のアジャイル実践の向上
- チームや組織の自律的な課題解決能力の開発
- チームの成長フェーズに応じた支援

主要な書籍から見る役割の違い
アジャイル開発の代表的な4つの書籍から、スクラムマスターとアジャイルコーチの違いを紐解いていきましょう。
スクラムマスターの定義
『エッセンシャルスクラム』(Kenny Rubin著)では、スクラムマスターの6つの核となる責任を定義しています:
- コーチ:チームの成長を支援
- サーバントリーダー:チームへの奉仕を第一に
- プロセスの権威者:スクラムの実践を確実に
- 障害の除去者:チームの生産性を妨げる問題に対処
- 干渉からの保護:外部からの妨害を防ぐ
- 変革の推進者:組織内でのスクラム採用を促進
『The Great ScrumMaster』(Zuzana Sochová著)では、スクラムマスターの成長を3つのレベルで示しています:
- チームレベル:単一チームの支援
- 関係性レベル:チーム間の協働促進
- システムレベル:組織的な変革支援
アジャイルコーチの定義
『コーチングアジャイルチームス』(Lyssa Adkins著)では、アジャイルコーチの4つの側面を説明しています:
- メンター:経験と知識の共有
- ファシリテーター:効果的な対話の促進
- 教師:アジャイル実践の教育
- プロブレムソルバー:システム的な課題解決
『アジャイルコーチング』では、コーチの基本的な役割として以下を強調しています:
- チームと組織への信頼構築
- 適切なコミュニケーションの確立
- 継続的な学習と改善の推進
- システム思考に基づく問題解決
書籍から見える本質的な違い
これらの書籍の定義から、両者の本質的な違いが見えてきます:
活動範囲
- スクラムマスター:特定のチームに深く関わり、日々の実践を支援
- アジャイルコーチ:組織全体を見渡し、システム的な改善を促進
主な責任
- スクラムマスター:スクラムフレームワークの実践と定着
- アジャイルコーチ:組織全体のアジャイル化の推進
求められる視点
- スクラムマスター:チームの自己組織化とパフォーマンス向上
- アジャイルコーチ:組織レベルの変革とリーダーシップ開発
期待される成果
- スクラムマスター:ハイパフォーマンスなスクラムチームの実現
- アジャイルコーチ:アジャイルな組織文化の醸成と定着
組織での活用方法
私がアジャイルコーチとしてお客様先に貢献するための、アジャイルコーチとスクラムマスターとの棲み分けについて紹介します。
アジャイルコーチは、複数チームを見たり、稼働日数の問題でスクラムマスターほど丁寧に密にチームと関わることができません。また、スクラムマスターの方がチームと関わる時間が長いため、チームメンバーの考え方や特性についてもよく理解しています。
そのため、アジャイルコーチがパフォーマンスを発揮する1つの方法にスクラムマスターの日々の観察結果をベースに、アジャイルコーチがスクラムマスターをコーチングすることでチームに対する効果を最大化するような接し方をします。
まとめ
スクラムマスターとアジャイルコーチは、それぞれ異なる特徴と責任を持つ重要な役割です:
スクラムマスターは、チームの一員として日々の実践に深く関わり、スクラムの定着とチームの成長を支援します。
アジャイルコーチは、チームの成長段階に応じて関わり方を変え、より広い視点から組織全体のアジャイル化を促進します。
両者は対立する存在ではなく、相互に補完し合う関係にあります。特に、アジャイルコーチがスクラムマスターをコーチングすることで、チームへの効果を最大化できます。
組織の状況や目標に応じて、これらの役割を適切に選択・組み合わせることが、アジャイル開発の成功への鍵となります。

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